実際の治療例 “ピロリ菌を除菌してから胸焼けが起こる”
当院や本院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
60代 女性 ピロリ菌を除菌してから胸焼けが起こる
【症状】
人間ドックの胃カメラで萎縮性胃炎とピロリ菌陽性を指摘され、かかりつけ医で薬を飲んでピロリ菌除菌を行ったところ、除菌成功してから2週間ほど経過して胸やけが起こるようになりました。
かかりつけ医に相談してみたところ、胃薬を処方されましたが、改善なく当院にご相談に来られました。
【診察・検査】
症状からは「逆流性食道炎」が考えられ、程度を評価し治療方針を決定するためご本人と相談し、再度胃カメラを行いました。
胃カメラでは軽度の逆流性食道炎の所見を認め症状の原因と考えました。
【治療】
ピロリ菌がいると胃がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃のリンパ腫などのリスクとなるため、基本的には薬による除菌を行います。
もともと胃酸がしっかりと出ている環境では菌は生息しづらいのですが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素をもっており、これにより胃酸を中和し胃の中に住み着きます。
ですので、ピロリ菌を除菌するとウレアーゼによる胃酸の中和がなくなるため、胃の中の胃酸の濃度は濃くなります。
ただしこれはピロリ菌がいなくなることで正常な胃酸の分泌環境に戻っただけなのですが、
除菌後しばらくは胃が正常な胃酸の状態に適応しておらず、一時的な胃酸分泌過多状態になってしまい、
そこにストレスや疲れなどによる胃の動きの低下が加わると逆流性食道炎が発症します。
逆流性食道炎の治療は
①胃酸分泌過多を抑える制酸剤
②胃の動きを改善させ逆流しないようにする運動機能改善薬
などを用いて行います。
今回も前医で制酸剤が処方されていましたが、効果が弱いものであり症状の改善が得られなかったと考え、逆流性食道炎に適した制酸剤への切り替えを行い、
併せて胃の動きを改善する漢方の処方を行いました。
制酸剤はどれも同じわけではなく効果に差があるため、胃カメラで逆流性食道炎の状態を見極め、状態に合わせた適切な薬を選択することが重要です。
【経過】
投薬開始後、3日ほどで胸やけの頻度は低下してきて、2週間ほどで症状は消失し、一旦薬は終了としました。
その後も症状の再発はなく、診療自体も終了となりました。
ピロリ菌除菌後に胃が正常な胃酸分泌に適応するのには個人差はありますが、3-12か月程度と言われており、その間に逆流性食道炎などの症状が出る方は今回のように投薬などを行い治療を行います。
胸やけなどの症状以外にも、胃痛・胃もたれ・ゲップ・吐き気などの症状が出る場合もありますのでお困りの方はご相談ください!
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文責:神谷雄介理事長(消化器内科・内視鏡専門医)