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なぜ下痢が起こるのか?その原因と治療法は?

便秘・下痢・血便・残便感などの、いわゆる「便通異常」の方は人口の10-20いるとの報告があります。
 
原因は様々で、生活習慣やストレスからおこる過敏性腸症候群や、がんや炎症性腸疾患と呼ばれる腸の病気、中には甲状腺の病気などの内科疾患が隠れている場合もあります。
 
当クリニックでは、その原因をしっかりと調べ、患者さま一人ひとりの状態に合わせて治療を行っていきます。
 
症状がつらく悩んでおられる方は一度ご相談ください。
 

  <目次>

  1. 下痢ってそもそもどういう状態?
  2. 下痢の原因は?
  3. 検査は?
  4. 治療は? 
 
 
1.下痢ってそもそもどういう状態?
 
下痢は「水分量の多い便を頻回に来す状態」と定義されています。
急激に発症し2週間以内に消失する「急性下痢」と、4週間以上持続する「慢性下痢」に分けられます。
 
 
2.下痢の原因は?
 
下痢は下記のような様々な原因で起こります。
  • 機能異常
  • 炎症
  • 薬剤性
  • 低栄養・低たんぱく
  • 手術後
  • 消化不良
  • 大腸がん
  • 生活習慣 など
それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
 

◆機能異常

大腸は便中の水分を吸収して固形便を作るという機能を持っています。この機能に異常が起こると下痢を来します。

 

機能異常をきたす要因としては

  • 過敏性腸症候群(ストレスや疲れなどによる腸の機能異常)
  • 甲状腺機能亢進症(腸の動きをコントロールする自律神経の働きを乱します)

などがあります。

 

関連ページ:過敏性腸症候群

 

◆炎症

大腸粘膜に炎症が起こると、腸が浮腫み水分が吸収できなくなったり、粘膜から浸出液がにじみ下痢を起こします。

 

腸炎を起こす原因としては

  • 感染性腸炎急性下痢のことが多く、細菌やウイルスによる感染によって起こります。
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)慢性下痢のことが多く、免疫異常によって引き起こされる腸の炎症です。

 

関連ページ:

炎症性腸疾患外来

感染性腸炎(急性胃腸炎)

 

◆薬剤性

薬のアレルギー抗生剤による菌交代現象などによって引き起こされる下痢です。

直前の服用だけでなく、数日~2週間前の薬の服用でも起こることがあるため、服用歴の把握が重要になります。

 

代表的な薬剤には下記のようなものがあります。

 

・制酸剤

胃酸を抑える胃薬で逆流性食道炎や胃痛時に使用されます。

大腸の粘膜に薄い繊維の膜のようなものを形成し、水分の吸収を阻害し下痢を起こします。

 

・抗生剤 

抗生剤は悪い細菌だけでなく、腸内の常在菌も攻撃してしまうことがあり、菌交代現象をおこして、腸内細菌のバランスが崩れて下痢を起こします。

また偽膜性腸炎という大腸炎を来して下痢を起こすこともあります。

 

・下剤の服用

下剤の量の調整がうまくいかないと下痢になります。

また胃薬の中には下剤の成分が入っているものなどもあり、ご自身では自覚がなく下剤を飲んでいる場合もあり、慢性的に下痢が続く場合は飲んでいる薬を見直す必要があります。

 

・抗うつ薬・抗精神病薬

精神・神経に作用する薬は腸の動きをコントロールする自律神経にも作用してしまうことが多く、腸管の機能を低下させ下痢を来すことがあります。

 

・抗がん剤

抗がん剤はがん細胞だけでなく正常粘膜を攻撃してしまうこともあり、腸の粘膜が炎症を起こし下痢を来したり、また腸の蠕動運動を亢進させて下痢を起こすことがあります。

 

◆低栄養・低たんぱく

栄養状態が悪くなると、アルブミンというたんぱく質が減少して腸管の粘膜が浮腫んでしまい水分の吸収が上手くいかなくなり下痢が起こります。

 

◆手術後

大腸や小腸の手術後は腸が短くなってしまうため、水分の吸収が上手くできず下痢になります。

また胆のう切除、胃・膵臓の手術後も下痢しやすくなります。

 

◆消化不良

吸収不良症候群や慢性膵炎などによって消化吸収が上手くいかなくなると下痢が引き起こされます。

 

◆大腸がん

大腸がんが進行して腸管の内腔を圧迫すると、便が通りにくくなってしまい下痢状の便となってしまいます。

 

関連ページ:大腸がん

 

◆生活習慣

香辛料の摂取アルコール多飲食べ過ぎによっておこる下痢もあります。

 

上記のように下痢は様々な疾患が原因で起こりますが、最も頻度が高いものは過敏性腸症候群で70-80%を占めると言われています。

 
 
3.検査は?

まずは問診で、現在の下痢の状態薬の服用歴手術歴生活習慣などを確認することから始めます。

その上で、診断に必要な検査を行っていきます。

 

<血液検査>

下痢の原因となる甲状腺異常などの内科疾患膵臓などの内臓機能の数値を調べます。

 
<腹部レントゲン>
体の外側から腸管の浮腫みなどの状態や、膵臓などの内臓の状態を確認します。
 
 
<便培養>
下痢の原因となる腸内細菌の増殖がないかを調べます。
 
 
<大腸カメラ>
大腸の粘膜の状態を直接を見て、ガンや炎症性腸疾患などの病気がないかを確認します。
 
 
 
 
4.治療は?
下痢の原因となる病気が見つかった場合は、まずその病気の治療を行います。
 
特に炎症性腸疾患は生涯を通して治療を要し、当院でも力を入れて専門的な治療に取り組んでおります。
 
病気などの原因がなく、ストレスや生活習慣に原因があると言われる過敏性腸症候群が考えられる場合には、患者さん一人一人の状況に合わせて治療を薬を行います。
同じ食生活や仕事をしていても下痢になる人とそうでない人がおり、病気の発症には体質が関わっている場合も多く、問診や診察を通してどの薬が効くかを見極め処方をしていきます。
また同時に改善すべき生活習慣を診察の中から探し出し、下痢にならない体質作りも行っていきます。
 
 
実際の治療例
30代男性 慢性的に下痢が続く 

【症状】

大学卒業後、社会人になってから下痢気味になり、数年前から悪化し1日5-6回の下痢があり会社でも度々トイレに行かなくてはならず、またここ最近は下腹部の痛みも出てきたとことで来院されました。

 

【検査】

経過が慢性的であり、ご本人も大腸がんなどの病気がご心配とのことであり、腹部エコーや大腸内視鏡(大腸カメラ)や血液検査で病気が潜んでいないかを確認しました。

過敏性腸症候群の内視鏡所見

結果は特に問題なく、下痢型の過敏性腸症候群と診断しました。

 

【治療】

仕事によるストレスはあられたものの、なかなか環境を変えることは難しいので、過敏性腸症候群の症状をコントロールし上手く付き合っていくため以下の治療を行いました。

 

①食生活の改善

・減酒

アルコールには便を緩くしてしまう作用があります。この方はお酒をほぼ毎日飲まれていたので、休肝日をしっかりつくり、翌日仕事のない週末に飲むようにしていただきました。

 

②内服治療

・セロトニン3受容体拮抗薬(イリボー)

下痢型の過敏性腸症候群の方にはかなり効いてくれるお薬です。

ただ量によってはお腹の張りなどの副作用が出てしまったり、やめると症状が再燃することが多いため、過敏性腸症候群の体質を変えていくような整腸剤と漢方薬を併用しました。

 

・整腸剤

腸内細菌のバランスを整えることで、便通や知覚過敏の改善が期待できます。

 

・漢方薬(桂枝加芍薬湯)

腹痛に対しての処方です。腸の過蠕動(動きすぎ)や知覚過敏に対して効果があり、知覚過敏などの体質も改善してくれる効果があります。

 

・抗不安薬

特に会議前や訪問先に向かう途中などプレッシャーがかかる場面では必ず下痢と腹痛をおこすとのこともあり、そのような場面では眠気の来ないような軽い抗不安薬を屯用することとしました。

 

【経過】

薬を飲み始めて2-3日で下痢は減り、腹痛も出にくくなりました。飲み始めて2週間目の再診時には「ほぼ下痢は落ち着いており、腹痛が時々出る」と言う状況でした。

さらに1か月程経過したころには症状がほとんど気にならないところまで改善されました。

 

その後は漢方をベースに処方を続け、現在は調子が悪くなったらセロトニン3受容体拮抗薬を数日飲んで落ち着けるプレッシャーがかかるときに抗不安薬を頓服して症状が出ないようにする、といったような具合で薬を減薬して症状とうまく付き合って頂いています。

 

薬を減らしても大丈夫になった理由としては、漢方や整腸剤による体質改善に加え、「下痢や腹痛になったらどうしよう」ということがストレスとなり、それがまた腸に影響するという悪循環に陥ってたため、痢・腹痛が落ち着いたことで不安要素が改善され、結果減薬していくことにつながったと考えられます。

 

 

②40代 女性 腹痛・下痢が治らない

【症状】

5日ほど前に発熱と腹痛と水下痢があり、翌日に近くの内科を受診し胃腸炎と診断され整腸剤の処方となりましたが、全然治らないとのことで当院を受診されました。

 

【診察】

触診では下腹部に痛みがあり、水下痢はまだ1日10回以上続いている状態でした。

発熱を伴っていたこと・症状が長引いていることなどから細菌性の感染性腸炎疑いました。前医では特に検査をしておらず、腹部エコーレントゲン血液検査で状態を評価してみることとしました。

関連ページ:感染性腸炎

 

【検査】

腹部エコーで右大腸中心に炎症像および血液検査にて炎症反応の上昇があり、中等度の大腸炎と診断しました。

上行結腸の画像です。 水色矢印の範囲で腸管が浮腫み 粘膜下層が炎症で白く見えます (黄色矢印)

 

【治療】

右中心に起こる急性の大腸炎はカンピロバクター病原性大腸菌による細菌感染が多く、主に食中毒が原因となります。

食中毒の場合は潜伏期間があり、食べてすぐ発症することもあれば1週間くらいたってから発症する場合もあります。

 

今回も問診で確認すると、最初に症状がでた日の4日前に鶏の刺身を食べたとのことで、カンピロバクター腸炎を考え治療を行いました。

 

<治療内容>

①内服治療;整腸剤 漢方薬

下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。

②抗生剤

菌を倒すために使用します。細菌性の腸炎に対して、炎症反応や症状が強い場合に用います

③食事指導

大腸炎の場合は水分が吸収できずに激しい水下痢を起こしてしまいます。そのため水分摂取はOS1やポカリスエットなどの体に吸収されやすいもの、食事はおかゆなどの消化しやすいものを召し上がっていただきました。

 

【経過】

受診後2日ほど症状が続きましたが、3日目くらいから次第に和らぎ5日後に再診頂いた際にはほぼ改善している状態で、整腸剤を数日間継続していただく形で終診となりました。

細菌性の腸炎は症状も激しく長引くことが多く、また激しい胃腸炎後は過敏性腸症候群になるリスクがあることが分かっており1)発症初期段階でしっかりと診断し適切な治療を行うことが大切です

また症状が長引く場合薬が効かない場合血便を伴う場合は感染性腸炎の他に潰瘍性大腸炎大腸がんなどの病気も考えられるため、大腸内視鏡(大腸カメラ)を行い実際に大腸の状態を確認することもあります。

 

 

文責:神谷雄介理事長(消化器内科・内視鏡専門医)

 
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