実際の治療例 “腹痛・下痢が治らない(感染性腸炎)”
当院や本院を受診された患者さんの実際の治療経過です。
40代 女性 腹痛・下痢が治らない
【症状】
5日ほど前に発熱と腹痛と水下痢があり、翌日に近くの内科を受診し胃腸炎と診断され整腸剤の処方となりましたが、全然治らないとのことで当院を受診されました。
【診察】
触診では下腹部に痛みがあり、水下痢はまだ1日10回以上続いている状態でした。
発熱を伴っていたこと・症状が長引いていることなどから細菌性の感染性腸炎を疑いました。前医では特に検査をしておらず、腹部エコーやレントゲン・血液検査で状態を評価してみることとしました。
関連ページ:
【検査】
腹部エコーで右大腸中心に炎症像および血液検査にて炎症反応の上昇があり、中等度の大腸炎と診断しました。
◆関連ページ:
右中心に起こる急性の大腸炎はカンピロバクターや病原性大腸菌による細菌感染が多く、主に食中毒が原因となります。
食中毒の場合は潜伏期間があり、食べてすぐ発症することもあれば1週間くらいたってから発症する場合もあります。
今回も問診で確認すると、最初に症状がでた日の4日前に鶏の刺身を食べたとのことで、カンピロバクター腸炎を考え治療を行いました。
<治療内容>
①内服治療;整腸剤 漢方薬
下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。
②抗生剤
菌を倒すために使用します。細菌性の腸炎に対して、炎症反応や症状が強い場合に用います
③食事指導
大腸炎の場合は水分が吸収できずに激しい水下痢を起こしてしまいます。そのため水分摂取はOS1やポカリスエットなどの体に吸収されやすいもの、食事はおかゆなどの消化しやすいものを召し上がっていただきました。
【経過】
受診後2日ほど症状が続きましたが、3日目くらいから次第に和らぎ5日後に再診頂いた際にはほぼ改善している状態で、整腸剤を数日間継続していただく形で終診となりました。
細菌性の腸炎は症状も激しく長引くことが多く、また激しい胃腸炎後は過敏性腸症候群になるリスクがあることが分かっており1)、発症初期段階でしっかりと診断し適切な治療を行うことが大切です。
また症状が長引く場合・薬が効かない場合や血便を伴う場合は感染性腸炎の他に潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの病気も考えられるため、大腸内視鏡(大腸カメラ)を行い実際に大腸の状態を確認することもあります。
文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)
■関連ページ■
参考文献:
1)Barbara G, Grover M, Bercik P, et al. Rome Foundation working team report on post-infection irritablebowel syndrome. Gastroenterology 2019; 156: 46-58.e7 , 過敏性腸症候群ガイドライン2020:p5-6
一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65