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実際の診療例 “ピロリ菌除菌後10年以上経って発生した胃がん”

[2024.12.20]

当院・本院を受診された患者さんの実際の治療経過です。

 

70代男性 ピロリ菌除菌後の定期的な胃カメラ

 

【症状】

自覚症状は特にありませんが、10年以上前に他院でピロリ菌を除菌し、3年ほど前から当院にて経過観察の胃カメラを受けておられます。

 

【内視鏡検査】

今回も内視鏡を行うと、胃の出口近くに4㎜大の発赤調陥凹部を認め(青矢印部分)早期胃がんを疑い生検を行ったところ、実際に胃がんの結果でした

胃の前庭部とよばれる出口付近に境界のしっかりした発赤調の陥凹部分があり(矢印部分)、この部分が早期胃がんになります

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【治療】

ガンではありましたが、幸いにも早期がんの状態であり内視鏡で切除し治癒切除となりました。

NBIモードに切り替えて観察すると、陥凹部の粘膜の状態がはっきりとしてガンの広がりを確認し、治療範囲を見極めることができます。

 

胃がんの原因のほとんどはピロリ菌ですが、ピロリ菌を除菌した後も胃がんのリスクは続きます。

ピロリ菌を除菌してもがん細胞は倒せないので、除菌前にすでに胃の中に発生していたがん細胞が将来的に大きくなって「胃がん」として現れることがあるからです。

1個のがん細胞が10mmに発育するために大体10年程度かかります。このがん細胞が除菌後10年15年先に早期がんとして胃に現れるのです。

除菌後も胃カメラを定期的に受けることで、今回のように小さな初期の胃がんを見つけることが出来ます。

胃がんも早期の状態であれば内視鏡での治療で根治することができるため、除菌後も定期的に胃カメラを受け早期発見をすることが非常に重要となります。

ピロリ菌Q&A

 

Q:親にピロリ菌がいる場合は遺伝しますか?

A:遺伝はしません

ピロリ菌は感染症なので遺伝はしません。

感染経路については、以前は不完全に処理された生活用水に混入したピロリ菌による感染が疑われていましたが、衛生環境がよくなった現在では、ピロリ菌感染者の唾液を介した感染が考えられています。

胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な幼小児期に成立すると考えられています。この幼小児期の感染経路の大きな要因として、離乳食が開始される生後4~8か月の時期の保護者による「離乳食を噛んで与える行為」が考えられています。

 

Q.ピロリ菌は自然に無くなることはありますか?

A.ピロリ菌は自然消滅することは稀です。

ただし、肺炎や腸炎などで抗菌薬を内服したときに本人の自覚がないまま除菌されているケースはあります。

 

Q:ピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎になると聞いたのですが本当ですか?

A:一過性に逆流性食道炎が食道炎の出現や増悪が起こることはあります

除菌後に胃酸分泌が増加し「一過性に」酸逆流症状の出現や悪化、あるいは逆流性食道炎の増加が見られることが報告されていますが),、長期観察した場合も軽症者が大多数で重症化することはほとんどなく、1 年後には GERD 関連の QOLと酸逆流症状は改善するとの研究結果があります), 

ですので、逆流性食道炎は起こっても一過性で重症化せずに長期的には問題とならないため、現在はガイドラインでも逆流性食道炎のリスクがあるからと言ってピロリ菌除菌を躊躇する必要はないかと考えられています。

参考文献:1)Kawanishi M. Development of reflux esophagitis following Helicobacter pylori eradication. J Gastroenterol 2005;40:1024‒1028.

2)Hirata K, Suzuki H, Matsuzaki J, et al. Improvement of reflux symptom related quality of life after Helicobacter pylorieradication therapy. J Clin Biochem Nutr 2013;52:172‒178

 

Q:大人になってから感染することもありますか?

A:かなり稀ですが起こることもあります。

ピロリ菌は基本的には胃酸の分泌が未成熟で胃の殺菌能力や免疫力がついていない乳幼児期に感染し、その後持続感染することが知られております。

ですので、胃酸の分泌がしっかりとあり免疫もある成人になってからはほとんど感染しませんが、成人においても経口感染し急性胃粘膜傷害(急性胃潰瘍)を発症する急性感染症の報告があります1) 2)

参考文献:

1)Sugiyama T、Naka H、Yabana T、et al. . Is Helicobacter pylori infection responsible for postendoscopic acute gastric mucosal lesions?  Eur J Gastroenterol Hepatol 1992,4:S93-96.

2)福田 容久, 篠崎 香苗, 佐々木 貴英, 他.Helicobacter pyloriの急性感染が疑われた急性胃粘膜病変 6例の臨床経過とH. pylori感染診断の問題点について.日本消化器病学会雑誌2014;111:899-908

 

Q:除菌した後に再感染することもありますか?

A:かなり稀ですが起こることもあります。

除菌後の再燃を除いた再感染率については0.2%程度とい報告があります1

ただ、逆に言うと99.8%は再感染はしないということなので、極めて稀と考えてよいかと思われます。

参考文献:
1)Take S, Mizuno M, Ishiki K,et al. Reinfection rate of Helicobacter pylori after eradication treatment: a long-term prospective study in Japan, Journal of Gastroenterology 2012;47:641-646

 

Q:2回目の除菌も失敗したのですが、除菌できますか?

A:除菌可能です。

保険適応外にはなりますが、除菌は可能です。当院では6次除菌まで行い除菌を成功した方もおられます。

 

Q:ピロリ菌除菌でアスピリンによる消化管出血を抑制できると聞きましたが本当ですか?

A:最新の研究では短期間のみの抑制効果があるとの報告があります。

消化管出血の原因となるアスピリン開始時にピロリ菌を除菌することで、2.5年間の間は消化管出血による入院・死亡が65%減ったとの研究結果があります1)

ただし、2.5年経過以降は未除菌群と比較し差はなく、効果は短期間と考えられています。

参考文献:
1)Hawkey C, et al.Helicobacter pylori eradication for primary prevention of peptic ulcer bleeding in older patients prescribed aspirin in primary care (HEAT):Lancet 2022;400:1597-1606

 

文責:神谷雄介院長(消化器内科・内視鏡専門医)

 

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