腹痛・下痢・血便が3日続く原因は?カンピロバクター腸炎だった実際の治療例
「下痢や腹痛・血便が治らない…」「整腸剤を飲んでも血便が出ている」
そのような時には、細菌性腸炎や潰瘍性大腸炎、大腸がんなど、早めに検査が必要な病気が隠れていることがあります。
今回は、3日前から腹痛・下痢・血便が続き、腹部エコー・血液検査・大腸カメラ・細菌培養検査によりカンピロバクター腸炎と診断した50代男性の実際の治療例をご紹介します。
血便でお困りの方がいらっしゃれば、このケースが受診のきっかけになれば幸いです。
腹痛・下痢・血便が続いている方へ
池袋上田胃腸クリニックでは、腹痛・下痢・血便などの胃腸症状に対して、診察、血液検査、腹部エコー、大腸カメラなどを組み合わせて原因を調べています。
腹痛・下痢・血便を起こす主な原因
腹痛・下痢・血便が同時に起こる場合、大腸に炎症や出血が起きている可能性があります。原因はひとつではなく、次のような病気を考える必要があります。
- 感染性腸炎:細菌やウイルスなどにより腸に炎症が起こる状態です。カンピロバクター、サルモネラ、病原性大腸菌、ノロウイルスなどが原因になります。
- カンピロバクター腸炎:加熱不十分な鶏肉などをきっかけに発症し、腹痛・下痢・発熱・血便を起こすことがあります【1】【2】。
- 虚血性腸炎:大腸への血流が一時的に悪くなり、急な腹痛と血便を起こす病気です。
- 潰瘍性大腸炎:大腸に慢性的な炎症が起こり、下痢・血便・腹痛が続くことがあります。
- クローン病:小腸や大腸などに慢性的な炎症が起こり、腹痛・下痢・血便・体重減少などを起こすことがあります。
- 大腸がん:早期では無症状のこともありますが、進行すると血便、便が細い、便通異常、腹痛、貧血などが出ることがあります。
- 痔:排便時の鮮血の原因として多いですが、腹痛や下痢を伴う場合は大腸の病気も考える必要があります。
カンピロバクター腸炎とは?
カンピロバクター腸炎は、カンピロバクターという細菌によって起こる感染性腸炎です。
原因として多いのは、鶏刺し、鶏のたたき、生焼けの焼き鳥、加熱不十分な鶏料理などです。また、生肉を扱った包丁やまな板から他の食品に菌が移る「二次汚染」によって感染することもあります【1】。
特徴的なのは、食べてすぐに症状が出るとは限らない点です。カンピロバクターは潜伏期間が比較的長く、厚生労働省では1〜7日とされています【1】
主な症状は、下痢、腹痛、発熱、吐き気、嘔吐などです。下痢は水様便だけでなく、血便を伴うこともあります【2】。
多くは自然に改善しますが、強い腹痛、血便、高熱、脱水、免疫力が低い方、高齢者、基礎疾患がある方では慎重な経過観察が必要です。
また、まれに感染後数週間してから、手足のしびれ・脱力・顔面神経麻痺・呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」を発症することがあるとされています【1】。
実際の治療例|50代男性「3日前から腹痛・下痢・血便が続いている」
【症状】
3日前の起床時から腹痛が出現し、午後から水下痢が始まり夕方から血便が出現。
近くの内科を受診し整腸剤を処方されましたが、治らないとのことで当院を受診されました。
【診察】
診察では、腹部全体に痛みを認め、特に右下腹部にやや強い痛みがありました。
腹痛・水下痢・血便があり、下痢の回数も多かったため、次のような病気を考えました。
- 感染性腸炎
- カンピロバクター腸炎
- 虚血性腸炎
- 潰瘍性大腸炎
- クローン病
- 虫垂炎に似た腸炎
- 大腸がんなどの腫瘍性疾患
カンピロバクター腸炎では、右下腹部痛をきたし、虫垂炎や潰瘍性大腸炎に似た症状を示すこともあります【2】。
そのため、今回は「単なる胃腸炎」と決めつけず、腹部エコーと血液検査で炎症の状態を確認することにしました。
【検査】
腹部エコー

実際のエコー画像です。大腸(オレンジ線で囲まれた部分)の壁が肥厚し(矢印部分)浮腫を起こして黒い部分が広がっています。強い炎症の所見です。
血液検査では炎症反応の上昇もあり、大腸炎を起こしていることがわかりましたが、潰瘍性大腸炎なのか感染性腸炎なのかの診断までには至らず、ご本人と相談し大腸カメラ(大腸内視鏡)を行い状態を確認することとしました。
大腸カメラ

大腸内にまだらなびらん・発赤を認め、特に最深部の大腸と小腸のつなぎ目(バウヒン弁:青線で囲まれた部分)に強い炎症(緑矢印)を認めました。
内視鏡所見からはカンピロバクターと呼ばれる細菌の感染を強く疑う所見で、この部位からの細菌培養検査でカンピロバクター菌も検出され、カンピロバクター腸炎と診断しました。
検査について詳しく知りたい方へ
【治療】
カンピロバクター菌による食中毒は、生や加熱があまりなされていない鶏肉(鶏刺し、鶏のタタキ、バーベキュー・鶏鍋・焼き鳥などでの加熱不十分な鶏料理)、あるいは鶏肉から調理過程の不備で二次汚染された食品(生肉を切った包丁でそのまま調理された料理)などを摂取することで発症します。
食べてからすぐ発症することは少なく、一定の潜伏期間(2~5日、長い時は1週間程度)後に発症します。
症状は腹痛・下痢が多く、今回のように血便を伴ったり、発熱や嘔吐を来す場合もあります。
今回も問診で確認すると、最初に症状がでた日の4日前に焼き鳥を食べたのことで原因の可能性が高いと考えました。
<治療内容>
①内服治療;整腸剤 漢方薬
下痢・腹痛といった胃腸炎症状を和らげます。
②抗生剤
今回のように症状や炎症が強く悪化の懸念がある場合に使用します
③食事指導
下痢による脱水予防のためOS1やポカリスエットなどの体に吸収されやすいものをこまめに摂取していただくこと、炎症のため消化吸収機能が十分に働かないためおかゆなどの消化しやすいものを召し上がっていただくこととしました。
【経過】
治療開始後2日目くらいから血便はなくなり、下痢・腹痛の頻度も減少、その後も日を追うごとに改善し5日後に再診頂いた際にはほぼ改善している状態でした。
カンピロバクター腸炎後発症後1-3週間後に、手足のの筋力低下・麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを起こす「ギラン・バレー症候群」と呼ばれる神経疾患をを発症する場合があるため、該当する症状が発症した場合にはすぐに再診していただくようにお伝えし、今回は治療終了となりました。
(その後もギランバレー症候群の発症による再診はありませんでした。)
腹痛・下痢・血便で受診すべき目安
次のような場合は、食あたりや痔と決めつけず、消化器内科を受診することをおすすめします。
- 水下痢が1日何度も出る
- 便に血液や粘液が混じる
- 発熱を伴う
- 腹痛が強い、または右下腹部が強く痛む
- 脱水症状がある(尿が少ない、口が渇く、ふらつく)
- 整腸剤を飲んでも改善しない
- 大腸がんや炎症性腸疾患の家族歴がある
院長コメント
カンピロバクター腸炎は、比較的よくみられる細菌性腸炎のひとつですが、症状が強い場合には「ただの食あたり」とは言い切れません。
特に、血便を伴う場合、腹痛が強い場合、下痢の回数が多い場合、症状が長引く場合には、感染性腸炎以外の病気も含めて確認することが大切です。
今回の症例では、腹部エコーで大腸炎の存在を確認し、大腸カメラで炎症部位を直接観察し、細菌培養検査でカンピロバクター腸炎と診断することができました。
感染性胃腸炎の後には、過敏性腸症候群のように腹痛や下痢が長引く状態につながることがあります。発症初期段階でしっかりと診断し適切な治療を行うことが大切です。
また症状が長引く場合・薬が効かない場合や血便を伴う場合などは、感染性腸炎の他に潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの病気も考えられるため、腹部エコーや大腸内視鏡(大腸カメラ)を行い実際に大腸の状態を確認することが重要です。
腹痛・下痢・血便でお困りの方は、自己判断で様子を見すぎず、一度ご相談ください。
お電話での予約・お問い合わせ:03-5953-5903
※ご予約がない方でも受付時間内に受診して頂ければ診察可能です。
よくある質問
Q. 腹痛・下痢・血便がある場合、すぐに受診した方がいいですか?
A. 血便を伴う下痢がある場合は、早めの受診をおすすめします。感染性腸炎のこともありますが、潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎、大腸がんなどの病気が隠れていることもあります。特に腹痛が強い、発熱がある、下痢の回数が多い、症状が2〜3日以上続く場合は注意が必要です。
Q. カンピロバクター腸炎では血便が出ることがありますか?
A. はい、あります。カンピロバクター腸炎では、下痢、腹痛、発熱、吐き気などに加えて、血便を伴うことがあります。血便がある場合は、感染性腸炎以外の病気との鑑別も必要になるため、医療機関で相談してください。
Q. カンピロバクターは食べてすぐ症状が出ますか?
A. すぐに症状が出るとは限りません。カンピロバクターは潜伏期間が比較的長く、食べてから数日後に腹痛、下痢、発熱、血便などが出ることがあります。直前の食事だけでなく、数日前の鶏肉料理なども確認することが大切です。
Q. 焼き鳥や鶏のたたきでカンピロバクター腸炎になることはありますか?
A. はい、加熱不十分な鶏肉や鶏のたたき、鶏刺し、生焼けの焼き鳥などはカンピロバクター食中毒の原因になることがあります。鶏肉は中心部まで十分に加熱し、生肉を扱った包丁やまな板の管理にも注意が必要です。
Q. カンピロバクター腸炎は自然に治りますか?
A. 軽症であれば自然に改善することもあります。ただし、血便、強い腹痛、発熱、脱水、下痢の回数が多い場合には、検査や治療が必要になることがあります。自己判断で様子を見すぎないことが大切です。
Q. カンピロバクター腸炎に抗菌薬は必要ですか?
A. すべての方に抗菌薬が必要なわけではありません。軽症の細菌性腸炎は補液などの対症療法で改善することもあります。一方で、血便、強い腹痛、高熱、炎症反応が強い場合などでは、抗菌薬治療を検討することがあります。診察や検査結果をもとに判断します。
Q. 下痢止めを飲んでも大丈夫ですか?
A. 感染性腸炎が疑われる場合、自己判断で強い下痢止めを使うことはおすすめしません。原因によっては、腸内の病原体や毒素の排出を妨げる可能性があります。下痢がつらい場合は、医師に相談したうえで薬を選ぶことが大切です。
Q. 腹痛・下痢・血便がある場合、大腸カメラは必要ですか?
A. すべての方に大腸カメラが必要というわけではありません。ただし、血便が続く、症状が改善しない、炎症が強い、潰瘍性大腸炎や大腸がんなど他の病気が疑われる場合には、大腸カメラで大腸の状態を確認することがあります。
Q. カンピロバクター腸炎の後に注意する症状はありますか?
A. まれですが、感染後数週間してからギラン・バレー症候群を発症することがあります。手足のしびれ、力が入りにくい、顔面の動かしにくさ、息苦しさなどが出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。
Q. 胃腸炎の後に下痢や腹痛が長引くことはありますか?
A. はい、あります。感染性胃腸炎の後に、腹痛や下痢、便通異常が長引くことがあり、感染後過敏性腸症候群と呼ばれる状態につながることがあります。症状が長引く場合は、再度相談してください。
まとめ
腹痛・下痢・血便が続く場合、原因は一時的な食あたりだけとは限りません。特に血便を伴う場合は、腸に強い炎症や出血が起きている可能性があるため、慎重な判断が必要です。
✔ カンピロバクター腸炎は、加熱不十分な鶏肉などをきっかけに起こることがあります。
✔ 潜伏期間が数日あるため、症状が出る数日前の食事内容も重要です。
✔ 腹痛・下痢・血便が続く場合は、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎、大腸がんなどを鑑別します。
✔ 血液検査、腹部エコー、大腸カメラ、便培養検査などで原因を確認します。
✔ 血便、強い腹痛、発熱、脱水がある場合は早めに受診しましょう。
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医師紹介
東海林英典(しょうじ ひでのり)院長
📍経歴
国立東北大学医学部卒業後、消化器内科・内視鏡内科の道を歩み始め、日本屈指の胃腸・内視鏡専門病院の平塚胃腸病院にて消化器・胃腸疾患と内視鏡検査・治療に従事。
胃腸疾患の外来診療を行いながら、年間3000件弱の内視鏡検査、および在院中は早期がんの治療も含めのべ数千件の内視鏡手術を施行。
令和6年10月より上田胃腸クリニックの院長に就任。
内視鏡検査だけでなく、胃痛・腹痛・胸やけや便秘などの胃腸症状専門外来や、がんの予防・早期発見に力を入れている。
- 日本内科学会認定医
- 日本消化器病学会専門医
🩺 診療にあたっての想い
「症状がつらい、病気が怖い…」そんな患者さんの気持ちに寄り添い、ご不安がある方でも、「ここを受診してよかった」と思っていただけるような診療を大切にしています。胃や腸のことで不安がある方は、お気軽にご相談ください。
アクセス
〒1710014
東京都豊島区池袋2丁目66-10
上田胃腸クリニック
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(北改札口を出たら左へ、突き当たり右側の階段20bから地上へ)
お電話での予約・お問い合わせ:03-5953-5903
WEB予約は【こちら】
文責:東海林英典院長・神谷雄介理事長(消化器内科・内視鏡専門医)
参考文献
- 厚生労働省. 食事にひそむキケン〜おいしく安全に食べるヒント|カンピロバクター食中毒. https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202405_004.html
- Centers for Disease Control and Prevention. Clinical Overview of Campylobacter. https://www.cdc.gov/campylobacter/hcp/clinical-overview/index.html
- JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―. 日本感染症学会・日本化学療法学会. https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf
- Barbara G, Grover M, Bercik P, et al. Rome Foundation Working Team Report on Post-Infection Irritable Bowel Syndrome. Gastroenterology. 2019;156:46-58.e7. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30009817/
