胃痛
1.胃痛の原因は?
胃痛は
- ①胃や十二指腸が原因の場合
- ②胃の周りの臓器が原因の場合
の2通りがあります。
<胃や十二指腸が原因の場合>
胃・十二指腸
- 胃炎
- 胃がん
- アニサキス症
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 機能性ディスペプシア など
<胃の周りの臓器が原因の場合>
膵臓
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 膵がん など
胆のう
- 胆石・胆管結石
- 胆嚢炎 など
大腸・小腸
- 感染性胃腸炎(嘔吐下痢症・ノロウイルスなど)
- 急性虫垂炎(いわゆる盲腸);初期は胃の辺りからの痛みから始まります。
- 大腸憩室炎 ;横行結腸に炎症が起こると胃の辺りの痛みとして感じます。 など
2.検査・診断の流れ
原因が「胃なのか」それとも「胃の周りの臓器なのか」、そしてどのような疾患なのかを見極めた上で治療方針を決める必要があり、
まず診察で状況を確認し、そして必要な検査を行い診断をつけ治療を行います。
<診察>
発症の状況や痛みの程度などを確認し疾患部位を予想します。
<検査>
血液検査
炎症の程度を評価したり、疑わしい原因臓器の数値の異常がないかをみます。
腹部エコー
内臓の状態(胃の壁が腫れてないか、胆石がないか、腸の炎症がないか、膵臓はどうか、など)を体の外側から確認します。
胃カメラ
胃潰瘍などの病気が疑われた場合に行い、実際に胃の中の状態を調べます。
大腸カメラ
大腸がんや大腸炎などの大腸疾患が疑われた場合に考慮します。ただし憩室炎などで炎症が強い場合には一旦落ち着いてから考えます。
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3.治療は?
原因疾患によって治療が異なるため、基本的には検査で診断をつけた後に原因に合わせて治療を行っていく方針となります。
以下、実際に当院と本院の巣鴨駅前胃腸内科クリニックでの治療例をいくつか挙げます。
① 50代 男性 食後の胃痛
【症状】
2週間くらい前から食後の胃痛を感じおり、ここ数日は痛みが増強し、痛みで食事がとれないとのことで来院されました。
【診察】
食後に痛みがあること、また以前にピロリ菌を指摘され除菌は行っていないとのことで、第一に胃潰瘍の可能性を考え、鑑別疾患として膵炎や胆のう炎なども想定し、まずはエコー検査を行い、胃や十二指腸・胆のう・膵臓などを観察することとしました。
【検査】
エコー検査では、胆のう・膵臓に異常はなく、胃の壁の肥厚と陥凹を認め、胃潰瘍を疑いました。
ご本人に胃潰瘍が疑われることをご説明し、引き続き胃カメラを行ったところ、実際に胃潰瘍を認め、診断が確定しました。
【治療】
胃や十二指腸の粘膜は、常に胃酸にさらされていますが、健康な状態では粘膜の防御機能によって胃酸により粘膜が傷つかないようになっています。
ただ、ピロリ菌や痛み止めの薬などによりこの防御機能がうまく機能しなくなり、そこが胃酸にさらされることで、粘膜が傷つきただれてしまい、ついには一部が欠損し潰瘍になってしまいます。
ですので、潰瘍自体については胃酸を抑える制酸剤や粘膜を保護する粘膜保護剤を使い治療を行います。
また、食事についてはしばらくの間は刺激の少ない粥食や消化のよい和食系のものを召し上がっていくこととしました。
<治療内容>
①制酸薬
胃酸の分泌過多を抑える薬です。胃酸分泌を抑えることで、胃の粘膜の再生力で潰瘍は治癒していきます。今回はプロトンポンプ阻害薬(PPI)という薬を処方しました。
②粘膜保護薬
胃の粘膜の防御機能を高め、潰瘍による胃痛を抑え改善をより早めます。
③食事指導
【経過】
投薬開始翌日には痛みは取れてきており、3日目の再診時には痛みはほぼなくなったとのことでした。食事は通常食に戻し内服を続け、1か月後の再診時もほぼ問題ない状態でした。
胃潰瘍は90%近くがピロリ菌が原因となっており、今回もピロリ菌が陽性であったため、除菌も行うこととしました。
(実際にピロリ菌除菌後の潰瘍の再発率は 1~2%と極めて低いことが報告されています※1。詳しくは、ピロリ菌と潰瘍の関係を参照ください。)
抗生剤と制酸剤の組み合わせを1週間飲んでもらい、1か月後に再診をして頂き、呼気検査にてピロリ菌の除菌成功を確認しました。
その後、内視鏡検査でも潰瘍が完全に改善したことを確認し、治療はいったん終了としました。
ただ、ピロリ菌除菌後も胃がんのリスクがあるため※2、胃カメラは定期的に行っていく方針としています。
胃潰瘍はみぞおちの辺りの慢性的な痛みがでることが多く、食後に増強するのも特徴の一つです。出血を伴う場合は便が黒くなります。
大きな潰瘍は今回のようにエコーでもわかることも多く、最終的に胃カメラで確定診断します。
悪化すると出血したり胃に穴が開いたり(穿孔)、重症化することもあるため、慢性的な胃痛が続く場合は、エコーや胃カメラの検査を行うことが大切です。
参考文献:※1Miwa H, Sakaki N, Sugano K, et al. Recurrent peptic ulcers in patients following successful Helicobacterpylori eradication: a multicenter study of 4940 patients. Helicobacter 2004; 9: 9-16
※2Sugano K. Effect of Helicobacter pylori eradication on the incidence of gastric cancer: a systematic review and meta-analysis. Gastric Cancer 2019;
②60代 男性 3日前からみぞおちが痛い
【症状】
3日前からみぞおちの痛みが出現し、寝れば治るだろうと思いそのまま様子をみていましたが、翌日も痛みが取れず近所のクリニックを受診し胃薬で様子を見ることとなりました。
しかし痛みは全く改善せずむしろ徐々に強くなり、その翌々日には歩くだけでも痛みが響くようになってきたため当院を受診されました。
【診察】
診察では痛みがみぞおちに限局しており、押すと強い痛みがある状態でした。
みぞおちの痛みの原因としては、
- 胃・十二指腸疾患潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がん・胃炎など)
- 胆のう疾患(胆石・胆嚢炎など)
- 膵疾患(膵炎・膵がんなど)
- 腸疾患(小腸炎・虫垂炎初期・横行結腸の炎症など)
が考えられ、まずは腹部レントゲン・腹部エコーや血液検査を行い状態を評価することとしました。
関連ページ:腹部エコー 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 胃痛・腹痛外来
【検査】
腹部エコーを行うと、痛みの場所に一致して横行結腸の憩室と周囲の大腸の壁の肥厚(図:黄色部分)が描出されました。
血液検査でも強い炎症反応が認められたことから、大腸憩室炎と診断しました。
【治療】
憩室炎は重症の場合は入院して様子を見ることもありますが、今回はご本人の希望もあり外来で治療を行うこととしました。
■治療内容■
①抗生剤
外来にて抗生剤の点滴を行い、内服薬の抗生剤を飲んで頂きました。
②食事制限
腸管を安静にし憩室部分に便による圧がかからないように、お食事は水分やスポーツドリンク、ゼリーやプリンなどの流動形のものの摂取にとどめてもらいました。
【経過】
翌日の再診では痛みはまだあるものの少し改善傾向で、血液検査での炎症反応もやや低下していました。
少なくとも悪化はなく、このままの治療方針で憩室炎の改善が見込める状態と判断し、抗生剤の点滴・内服継続としました。
3日目にはさらに痛みも炎症反応も改善し、食事は2-3日おかゆやうどんなどの柔らかいものを食べて頂くようにし、4日後に再診としたところみぞおちの痛みはなくなっており、血液検査・エコーの所見とも改善しており、憩室炎の治療は終了となりました。
みぞおちの痛み=胃の痛みと考えられがちですが、今回のように腸の炎症でもみぞおちの痛みが生じることは少なからずあります。
- 薬を飲んでも治らないみぞおちの痛み
- 歩くと響く痛み
- どんどん増強する痛み
- 発熱を伴う場合
などは胃以外の原因も考え、腹部エコーやレントゲン・血液検査などで状態を評価することも重要です。
また今回の方は比較的早期に受診して頂いたため、幸いにも憩室炎が悪化せずに外来通院で完治することが出来ました。
このように憩室炎は早期に治療を開始することが重要ですので、当院では大腸カメラで憩室を指摘された方や憩室炎の既往がある方には、腹痛や発熱などの症状があるときにはすぐに来院してもらうようにお伝えしております。
ただ、憩室炎は悪化すると穿孔といって腸が破れてしまい腹膜炎という重篤な状態に陥り緊急手術になったりするケースもあるので、炎症が強い場合や腹痛が強い場合には入院して慎重に経過を見る必要があります。
③40代女性 寿司を食べた数時間後に嘔吐と激しい胃痛
【症状】
就寝中に嘔気と胃痛で目が覚め、数回嘔吐しその後も断続的に胃痛が続くとのことで、翌朝当院を受診されました。
【診察】
夕食に寿司を食べたとのことで、症状の原因として
- アニサキス症
- 感染性腸炎(食あたり)
を考えました。
感染性腸炎なのかアニサキス症なのかで治療方針が全く異なり、またアニサキス症の場合は胃と小腸のどちらかを見極める必要があり、まずは腹部エコーやレントゲンで状態を評価することとしました。
【検査】
・腹部エコー レントゲン
レントゲンでは異常所見は認めませんでしたが、腹部エコーで胃の壁の限局的な肥厚を認め、胃のアニサキス症を考え胃カメラを行うこととしました
※感染性腸炎の場合はレントゲンで異常ガスが出現したり、腹部エコーで腸管の炎症像が描出されます。
また小腸アニサキスの場合は、小腸に限局的な壁の肥厚像を認めます。
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【治療】
・胃カメラ
胃の壁に食いついたアニサキスを認め、周囲の粘膜が浮腫を起こしている状態でした。
アニサキスによる痛みは、アニサキスが胃壁に食いつくことで体がアニサキスを異物と認識してアレルギー反応を起こすことで誘発されます。
ですので、アレルゲンであるアニサキスを取り除くことで症状が消えることがほとんどです。
今回も内視鏡終了後には痛みは消え、無事に治療完了となりました。
アニサキス症はイカやサバ・アジなどの海鮮を食べて数時間後に激しい胃痛として発症することが多く、「強い痛みがありちょっと和らいでまた強い痛みが出る」というような断続的な胃痛のパターンをとることが多いのが特徴的です。このような痛みがあるときは我慢せずに早めに医療機関への受診が重要です。
4.Q&A
Q:突然胃が痛くなる原因は何ですか?
A:急に発生する胃痛の原因は下記のような原因があります
胃の問題
・急性胃腸炎・感染性胃腸炎(いわゆる食あたり)
・胃アニサキス症
・胃潰瘍や胃潰瘍穿孔(胃に穴が開くこと)
・強いストレスや食べ過ぎなどによる胃酸分泌過多
胃の周りの内臓の問題
・胆石
・急性膵炎
・急性虫垂炎(いわゆる盲腸)の初期
などです。
症状の原因は多岐にわたるため、症状が強い場合・持続する場合には診察の上、エコー検査や胃カメラなどの適切な検査を行う必要があります。
Q:胃が痛い時はどうすればいいですか?
A:痛みが軽度の場合は、ひとまずは肉などの高たんぱくのもの、香辛料などの刺激物を避けて、消化の良いものを食べて様子を見るようにします。
ただし、痛みが強い場合や持続する場合は早めに医療機関を受診することをお勧めします。
Q:胃がキリキリ痛む原因は何ですか?
A:キリキリとした痛みの原因としては胃酸分泌過多がまず考えられます。
暴飲暴食や香辛料刺激物の過剰摂取、ストレスなどが誘因となることが多いです。
改善がない場合や繰り返す場合には病気が隠れている可能性もあるため、医療機関を受診するようにしましょう。
Q:胃痛が何日続いたら病院へ行くべきですか?
A:一過性の胃痛の場合はまずは様子見でもよいと思いますが、下記の場合は病気のサインのこともあるため医療機関を受診しましょう
- どんどん痛みが増強する場合
- 12時間以上持続する場合
- 何度も繰り返す場合
Q:胃が痛い時は何も食べない方がいいですか?
A:下記の場合は絶食の上、医療機関の受診が望ましいです。
・痛みが強い場合
・嘔吐や下痢などの胃腸炎症状がある場合
・12時間以上持続する場合。
痛みが強くない場合は、前述のように肉などの高たんぱくのもの、香辛料などの刺激物を避けて、消化の良いものを食べて様子を見るようにします。